詩と香り、儚さ - intangible archivesintangible archives

Photo : Mikio Hasui

詩と香り、儚さ

執筆活動のほか、朗読や異業種とのコラボなど、多彩に活躍している詩人の菅原敏さんに、詩と香り、一瞬で消えてしまう儚さについてお話をうかがいました。
(聞き手:手塚清、サカキテツ朗)

サカキ:香りにまつわるお仕事もされているそうですね。
菅原:以前、燃やすとレモンの香る詩集を出したのですが、そこから色々なご縁もあって、現在は尾道のホテルLOGとSENNというブランドで作ったお香に詩を添えたり、読書のための香りや、アロマディフューザーのプロデュースなどもやらせていただいてます。詩と香りはとても似ているところがあって、詩を朗読した時に言葉はふわっと消えていくのですが、その感覚は香りにも共通していると思っています。
手塚:香りといえば、講演をしたのですが、そのタイトルが「会社の薫りを作る」でした。香りは匂う香りと人間が醸し出す空気感があります。その人が持っている何かが醸し出すというものは会社にもある。社員みんなが誠実にお客様に一生懸命向かっているという姿が醸し出るまで自分を磨こうという話で、経営者時代にずっと言ってきたことです。
菅原:ふとした時にその人の香り、会社の香りがしますよね。
手塚:会社は人間がやっていて、会社にも法人格がある。そこに香りが生まれるのでしょう。
サカキ:詩も耳で聞いて過ぎ去るというのもいいですね。
菅原:声にして読むと一瞬でふわっと消えていってしまうんですけど、それは香りと同じで、残るものはあります。
サカキ:例えば建物だったりデザインだったり、形があることが正解ではなく、そこで感じるものの方が実は大事なんだけど、やっぱり形の方がわかりやすいから形に意識が行きがちです。一瞬の体験に大事なものがある気がします。
菅原:確かに、儚いけど人の心に色濃く残りますよね。
サカキ:webも写真と文字で構成されていますけどそうじゃない可能性があってもいい。残らない音とか香りという形であってもいい。
菅原:そうですね。満月の日だけ朗読が聞けるとか。

形になっていないものの面白さ

手塚:今回のwebのタイトルもintangibleということでしっくりきました。
菅原:いい名前ですね、確かに。
サカキ:手塚さんがおっしゃるようなことは無形だけど、形にしてしまうと違うところもあるなと。そのプロセスが見える、そうなるといいなと思いました。
手塚:経営者だったから結果を求めてきましたが、プロセスの大切さについて、建築家の石田さんから話を聞いて、なるほどと思いました。人生というのはプロセスの連続だから、プロセスという結果の積み重ねが人生だと考えるようになりました。
サカキ:仕事は結果重視のところがありますが、人生はプロセスじゃないですか。仕事がプロセスになると楽しいだろうなと。プロセスで評価される仕事ができたらすごく幸せだと思います。
手塚:メイキングしているところもプロセスで、作品のひとつと言えますね。
菅原:そうですね。先日、熊野古道など日本の道を自ら歩いて写真集を作っているアメリカ人の友人に会ったのですが、日本の素晴らしい印刷技術を駆使して本を作っていて、その本ができるまでのドキュメンタリーの映像も撮っています。成果物として本の中身にフォーカスしがちですが、本作りは家を建てるようなもので、紙選びから印刷、箔押し、製本など、とても緻密に作られている。そんな普段目にしない出版の裏側を垣間見ることができ、それも含めて作品として見ると違った見方ができます。
手塚:そうですね。完成したものだけを見るのではなく、プロセスについても知りがいがあります。敏さんは詩をアートとして捉えていると思います。
菅原:詩を書いているだけで満足という気持ちはなくて、どうやって届けるか、どんな器に注げるか、そういうところに興味があります。もちろん一番の目標としては「一編でも良い詩が書けたら」という気持ちは大きいのですが。
手塚:自己満足じゃない、器なら使う美みたいな用の美ですね。
菅原:本当にそうですね。毎回色々な器に詩を注ぐことで器の世界が詩と共鳴し合う。無形というか形をその都度変えていくのが楽しいですし、本に注ぐのと街に注ぐのとではだいぶ形も変わっていく。そういう意味でも詩の自由さに惹かれます。

菅原敏
詩人。2011年、アメリカの出版社PRE/POSTより詩集『裸でベランダ/ウサギと女たち』でデビュー。執筆活動を軸に、異業種とのコラボレーション、ラジオやテレビでの朗読など幅広く詩を表現。アメリカ(ポートランド州立大学)、ロシア(サンクトペテルブルク・プーシキン博物館)やポーランド(ワルシャワ日本大使館)など、海外からの招聘で国際的な朗読活動も行なっている。主な講演に東京国際文芸フェス、六本木アートカレッジ、Google (US)主催のデザイン・カンファレンス「SPAN」など。Superflyや合唱曲への歌詞提供、東京藝術大学大学院との共同プロジェクト、美術家とのインスタレーションなど、音楽やアートとの接点も多い。
近年は長崎県壱岐市、福井県小浜市、広島県尾道市など地方創生やまちづくりに関わる詩作や、J-WAVE『QUIET POETRY』『NIKE LAB RADIO*』の ディレクション、香りにまつわる製品のプロデュースなど、〔もしも詩が水なら〕をテーマにさまざまな器に詩を注ぐ活動を展開している。
近著に『かのひと 超訳世界恋愛詩集』(東京新聞)、『果実は空に投げ たくさんの星をつくること』(mitosaya)、『季節を脱いで ふたりは潜る』(雷鳥社)。東京藝術大学 非常勤講師。http://sugawarabin.com/